滋賀県の琵琶湖を挟んで向かい合うように、彦根と高島というエリアがあります。彦根は、植物×廃材「ハコミドリ」の周防苑子さんの、そして高島は鹿骨アクセサリーブランド「deer bone “hai”(ディアボーン ハイ)」の岡本梨奈さんの創作拠点です。滋賀県出身のUターン組で、同世代。同じ時代にモノづくりに挑む2人の共通項は、一度捨てられてしまったものにもう一度価値を見出すこと

じっくり話すのは、これがほぼ初めてだという2人。モノづくりを生業にする女性たちの、どんな想いが飛び出すのでしょうか。

岡本梨奈さん

岡本 梨奈@deer_bone_hai

1987年生まれ。京都精華大学卒業。2013年に滋賀県高島市にUターン。「猟」「自分の手で作れるもの」を軸に生業を作れないかと模索するうち、素材である鹿の骨に出会い、アクセサリーブランド「deer bone “hai”」を立ち上げる。狩猟免許を取得し、獲物をとるまでの体験をまとめたエッセイ漫画を執筆中。

周防苑子さん

周防 苑子(@suosono

1988年 滋賀の生花店に生まれる。学生時代を京都、会社員時代を東京で過ごし、2014年夏 帰郷後、廃材と植物を掛け合わせた「ハコミドリ」を設立。現在クラウドファンディングサイト FAAVOにてアトリエ・キッチン・ラボの要素を兼ね備えた「VOID A PART」プロジェクトに挑戦中。

植物×廃材「ハコミドリ」の作品の一例
植物×廃材「ハコミドリ」の作品の一例
鹿骨アクセサリーブランド「hai」ブランドの一例
鹿骨アクセサリーブランド「deer bone “hai”」ブランドの一例

お互いに「あの人が気になる」と思っていた

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

周防 岡本さんとは、京都一乗寺の本屋「恵文社」さんが主催したイベントで、同日に出店していたことがきっかけで出会いました。「鹿骨アクセサリー」というネーミングの時点で、とても気になって。話しかけてみると、なんと大学の1つ先輩だということが発覚して! それ以来ずっと活動を拝見していたので、今日お話できるのがとても楽しみでした。

岡本 もう2年前くらいやなぁ。私もいろいろ聞いてみたいと思っていました。

周防 早速ですが、岡本さんの創作の開始はいつなんですか。

岡本 そうですね、最初から話すと……ちょっと長くなってもいいですか?

周防 もちろんです。

岡本 もともと滋賀県の高島が地元で、2013年の秋くらいにUターンして戻ってきました。そのタイミングで、自分の食料を自分で確保できるようになったらかっこいなと思って、狩猟をやってみたくなって。それまでにも猟への興味はあったのですが、小さな獲物しか獲ったことがなかったので、もっとしっかり取り組んでみようと思いました。

その後すぐ、人づてにいろいろな方を紹介していただき、縁あって鹿肉の解体場で働くことに。そこは、解体した鹿肉を、料亭やレストランに卸すのが主な業務だったので、狩猟の勉強をしながら、仕事として日常的に鹿肉や骨に触れ始めました。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

周防 では「deer bone “hai”」の発想は、その解体場で生まれたんですか?

岡本 そうですね。ある日ふと骨が目にとまったんですよ。これ、めっちゃキレイやなあって。

周防 キレイだと思われたんですねぇ。

岡本 うん。解体場の方に聞いたら「骨は山に穴掘って捨てるだけ」って言いはったから、2本ほど持って帰ってもいいですかとお願いしました。で、試しにルーターという名前の、小さいドリルのような機材を買って削ってみたら、どうやらこれはいけそうだぞと。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

周防 ルーターで削るんですね。

岡本 最初、彫刻刀とかナイフで削ろうとしたんですが、まったく削れなくて。骨ってめちゃくちゃ硬いんです。

周防 へぇ。

岡本 肩甲骨とか肋骨は、筋肉が付く場所だから表面がギザギザしていて、特に彫りにくいんです。肩甲骨は特に筋肉が多く繋がっている部位だから表面がざらざらで……仕上がりの質感が悪かったりします。

だから前足の橈(とう)骨や尺骨のような、硬く厚みがあって、かつツヤも出せる足の骨を主に使うようにしています。角はまた質感が違うし、歯も面白い模様をしているし、骨への興味は尽きません。解剖学も勉強中です。

周防 へぇー知らなかった……! おもしろい!

岡本 モノづくりにあまり馴染みのない方には、この話をしても興味を持たれないことが多いけど、こうやって聞いてもらえると嬉しいですね。たまに「これは臼歯ですね?」とか詳しい方に言ってもらえることもあって、そういう時はテンションが上がる(笑)。

周防 なるほど、やっぱり色々と勉強や試行錯誤をされているんですね。なんだか感動しました。

岡本 ありがとう。じつは、モノづくりを始めた大きな理由は、もうひとつあって。簡単に言うと「先輩の背中」かな。「風と土の工藝」という作家さんの工房開きのイベントに参加した際に知ったのですが、手仕事で生計を立てている若い方って、高島市内にとても多いそうなんです。

周防 高島、素敵な方がたくさん暮らしていらっしゃいますもんね。

岡本 それから能登川駅から山側に向かって、30分ほど車で進んだ先に、「BASE FOR REST」という素敵なカフェがあります。彼らが主催している「森のアクセサリー展」というイベントに参加した時のことも、非常に印象に残っていますね。

帰ってきたばかりの地元で何をしようか悩んでいるときに、モノづくりを生業にされている方にお会いして、私もこうやって生きていきたいと思いました。

滋賀県内・外から人が集うカフェ「BASE FOR REST」
滋賀県内・外から人が集うカフェ「BASE FOR REST」


周防
 私も「BASE FOR REST」さんにはとても影響を受けています。そこで出会った方をはじめ、滋賀にUターンしてから知り合った方との交流を通して、「滋賀県でなら自営業で身を立てられるかもしれない」と考えるようになりました。

岡本 手仕事の先輩たちが、大丈夫って言ってくれるんよね。

周防 はい。そして、そういう声掛けをしてくれる方たちって、思想もしっかりとあって、その上とても幸せそうなんですよね。

岡本 うん。そういう環境だから、私もすぐ「deer bone “hai”」の原型となる作品を作って、Facebookにアップした。そしたら想像以上に反響があったんで。

周防 ……すごい!

岡本 え?

周防 あ、すみません、突然大声出して。でも、今までお話してくださった経緯やきっかけの流れが全部一緒で、かなりびっくりしました!

植物×廃材「ハコミドリ」の周防苑子さん

岡本 ほんと。重なる部分は多いんやろなぁって思ってたけど、ほぼ流れが一緒?

周防 はい。廃材に興味を持ったきっかけから、ウェブにアップするところまで、ほぼ。

岡本 具体的には、周防ちゃんの場合はどうなるのかな?

周防 私は実家が花屋で、親戚も何かしら商売をしているような家柄で育ったんですが、ある日、親戚のガラス工場にものすごく大きな箱が置いてあるのに気が付いて。それ、ゴミ箱だったんですよ。

岡本 うん。

周防 中を覗き込んだら、ガラスが山積みで。溶かして何かに加工するのかと思ったら「捨てるだけ」と。でも私はとてもキレイだと思って……。

植物×廃材「ハコミドリ」
廃材ガラスを加工して、「ハコミドリ」をつくっていく

岡本 なるほど。

周防 ガラスをいただいていいですか、と聞いたら「キレイなんて言ったやつはお前が初めてや。どうするん?」と言われたけれど、キレイだと思ったし、可能性を感じたんです。きっと、岡本さんはこの気持ち、わかってくださいますよね。

岡本 分かります、まったく同じですわ(笑)。

周防 そのあとすぐガラスカッターやハンダこてを購入して試行錯誤の末、「ハコミドリ」を作ってfacebookに載せたら想像以上の反響をいただき、友人や会社員時代の先輩たちに「周防ちゃん、これをやりなよ」って言ってもらった。

岡本 うーん、似てますねぇ。

周防 めっちゃびっくりしました。全部一緒やって。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

家族の反応、ウェブの世界……リアルな反応の違いがあった

周防 ただ、ウェブではなくリアルだけの反応では、もっと減速してしまっていたかもしれないと思います。

岡本 あぁ、それも分かるわぁ。

周防 ウェブにアップして反応をもらえる体験って、結構大きいですよね。肌感がつかめるというか。

岡本 求めてくださる方がこんなにいるのか、と思えます。ちょうど私がFacebookにアップした頃って、「狩猟サミット」という狩猟に興味のある人が集まるイベントに参加したあとで、そこでつながった人がたくさん反応してくれた。「こんなのは作れる?」って質問があったりとか。

植物×廃材「ハコミドリ」の周防苑子さん

周防 あんまり好きな言い方ではないですが、私たちはいわゆる「ゴミ」と分類されるものをリユースしているわけじゃないですか。私は身内から「えっ、それゴミから作ってるんやろ? 売る気?」みたいな反応がありました。

岡本 私も、両親の反応は「もうなんだか何やってるか分からない」みたいな感じで冷たかったですよ(笑)。父は特に血がすごく苦手な人なので……。でもFacebookでつながっている、アパレル業界や出版関係のアンテナを張っている方々って、言ってみればファーストユーザーと呼ばれる層じゃないですか。

周防 はい。私も、東京で働いていた頃に知り合った人たちが反応してくれたのは、本当に大きな後押しになりました。少しおこがましいけれど、培ってきた人間関係がちゃんと生きてきた、みたいな感覚ありませんか?

岡本 重ねてきた出会いがつながった感じ、分かります。余談ですけど、最近は父も自分の店に「deer bone “hai”」のDMを置こうとかって言ってくれるようになりましたよ。

周防 いいお父さんですね……。

何度泣いても諦めない、進みたい

周防 私たちがやっていることって、すごくニッチだなぁと思うんです。業界がまだ成熟していないから、先駆者としてある種「開拓していく楽しみ」みたいなものもありませんか?

岡本 それはありますねぇ、めちゃくちゃ楽しい(笑)。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone
岡本さんの首元のファーも、手作りだそう

周防 少し調べてみたんですが、鹿骨を彫ってアクセサリーにしている方って、日本でもかなり少ないですよね。

岡本 私が無知なのかもしれませんが、あまりいらっしゃらないですね。

周防 ハコミドリ」を作っている私の場合は、テラリウム作家という分類になるんですが、テラリウムがそもそも日本ではまだメジャーではないんですよ。なので作家さんの数も少なくて。その中でも、廃材を使っているのはおそらく私だけです。

岡本 へぇ。それだと、値段設定とか迷うことないですか?

周防 はい……もう悩みすぎて悩みすぎて。何回泣いたことか……。

岡本 価格を自分で定めるって、すごく悩む。「原価ゼロやん、めっちゃいいやん」って言われたこともあったけど……。

周防 そう! 良い意味で言ってくださるんですが、なぜかシュンとなってしまうんですよね。

岡本 正直、いや、ちょっと待てよってね(笑)。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

周防 適正価格を出すために、自分の作業をすべて書き出してストップウォッチで時間を測ってみたり。

岡本 やりますよね。自分の作業を時給計算して、行程を書き出して、骨を煮込んで殺菌したりする時間を測る。みんな通る道なのかもしれないね。未熟だなぁ、私たち(笑)。

周防 悩みぬいて決めた値段で買ってくださった方がいると、心の支えになります。

岡本 ですね。ここで下げたら、買ってくださった方に失礼やし。まぁ、最近はあまり揺らがず、何かを言われてもあんまり気にしないようにしようって思えるようになってきましたが(笑)。

周防 強い。私もそうならないと。孤独に勝ちたいな……。

私の手が届く範囲で「小さな経済」をつくりたい

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

周防 たまに一人で作業していると、ふと「これ需要あるのかな?」って思ったりしませんか。

岡本 思うね。「私、大丈夫かな?」とか。

周防 ですよね。他の方のお仕事を拝見して「私は果たして社会に貢献しているのか?」とか夜中に考えだすと止まらない。

岡本 あはは、周防ちゃんも私も、根は暗いんやなぁ、たぶん(笑)。

周防 できることなら、小さな経済を回したいんです。

岡本 あぁ、いいこと言うね。周防ちゃんの思う、小さな経済を回す意味って何かな?

周防 そうですね……「ハコミドリ」の原材料の確保って非常に大切です。そしてそれを生み出してくれる環境は、もっと大切。廃材ガラスは、すでに私が一生をかけて「ハコミドリ」を作り続けても、生かしきれないほどの量が存在するんです。一方で、作り手・担い手の高齢化や減少によって、絶滅の危機にさらされている植物もある。お取引している全国の農園さんでも、人手不足や植物ブームによる乱獲に悩まされている方が多いです。

ゴミは増え続けるけれど、植物はどんどん減っていく。私がすべて変えられるとはまったく思っていなくて、むしろ誰かに何かを託して死ぬんだろうなと思いますが、まず現実にスポットライトを当てる人が必要なんじゃないかなって。

滋賀県に帰ってきてから、その役割を少しでも担えたらいいなって考えるようになりました。

植物×廃材「ハコミドリ」の周防苑子さん
周防さんは、ガラスカットなどの技術をほぼ独学で身につけた

岡本 うん。

周防 光を当てるためには、最低限のお金を回すことが必要で。小さくても経済を回して、続けられる仕組みまでつくる。人の嗜好を変えたり興味関心を持っていただいたりすることは、本当に難しいのですが、まずは自分の意識も含め、周辺からつくっていかないと。

……岡本さんはどうでしょう?

岡本 そうだなあ……小さな経済を大切にしたい理由は、細かいところまで見きれなくなる、手が回らなくなるということへの危惧かもしれません。例えば「deer bone “hai”」のアクセサリー作りを、価値やデザインまで詳細を規定して人を雇ってシステム化して、事業を大きくするという未来も、なくはないと思うんですよ。でもそうすると、もともと廃材から作っていたはずなのに、加工しきれないパーツが出てきて、またゴミが増えるんです。本末転倒。

でも、自分の手が届く範囲でモノづくりをしていると、素材を活かすことを考えられるし、微調整もできます。それが世界で一つだけのデザイン、とかそういうことにも繋がっていくんだと思うんですが、規模が適正だとお客さまにモノの背景まできちんと説明することもできる。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

周防 うんうん。

岡本 大きい経済の流れは、自分の意思で止めたり変えたりするのがすごく難しい。それよりは、個人ひとり一人が、小さな経済を小さい範囲で、しっかり考えて回すことを目指した方がいいんじゃないかと私は思っていて。

それに、最近この流れは琵琶湖エリアだけじゃなくて、日本全国いろいろなところで生まれてきているなと肌で感じるようになりました。

……あんまりまとまってなくてすみません。

周防 いえ、分かります。私も地元にUターンして、暮らしや経済を自分の手で循環させている大人の方々が、想像以上に存在していることに驚きました。自分の食べる分だけ稼いで、余暇の多い、無駄のない暮らしを目指すことの豊かさを感じますよね。

ジェットスキーに乗って「VOID A PART」を目指そう

岡本 でもこの辺って、その暮らし方を周りに強く薦める姿勢があんまりない。私もですけど(笑)。

周防 そうかもしれないですね。滋賀県の土地柄なんですかねぇ、割と皆さんマイペースで……でもそんなところが魅力ですけれども(笑)。

岡本 だから個人的には、周防ちゃんみたいに地域の拠点を作ったり、広く活動したりしてくれるひとがいるとすごく嬉しいんですよ。あ、周防ちゃんが強制する人って意味じゃないからね、念のため!

周防 私ですか……。まだまだすぎて、恐縮です。でも「BASE FOR REST」さんや「VOID A PART」のすぐ近くのお店「vokko」さんが、県外からもたくさんのお客さんを集めているのを見て、私も若い世代の人やアンテナを張っている面白い大人の方たちが集う場を琵琶湖沿いに作りたいとは、僭越ながら思っています。

岡本さんとも本当はもっと会ってお話したいです。なにせ、琵琶湖って大きいから陸路だと遠くて……。ジェットスキーで湖を横断して、「VOID A PART」に来てもらえたらなあ。

岡本 それいいね。お互いに琵琶湖を突っ切って、琵琶湖に浮かぶ有人島の沖島で待ち合わせして。

植物×廃材「ハコミドリ」の周防苑子さん

周防 私は滋賀県に集まったものが、点ではなくて面になってくれたらいいなって思うんです。これは、「VOID A PART」の共同代表の牧も同じ意見なんですが……「VOID A PART」がその一端を担えるようになればいいなぁ。

岡本 できるんじゃない? 周防ちゃんなら。

周防 はい。なんか……頑張ろっ! って思いました。お話していて。

岡本 うん、頑張ろ。私も今、山に罠仕掛けてるんだ。鹿が捕れたらさばいて、鹿肉にして、骨は煮込んで「deer bone “hai”」の素材にする予定。これからは、「骨を加工してみたい」っていうひとに製作キットみたいなものを販売できたらいいなと思っていて。狩猟エッセイマンガの発売も近いし、私も挑戦していくね。

周防 やりたいこと、たくさんありますよね。私はまずは「VOID A PART」の完成を目指して、改装や「ハコミドリ」創作を頑張ります。今日は、ありがとうございました。お話できて嬉しかったです。

岡本 こちらこそ。また一緒に「deer bone “hai”」と「ハコミドリ」を並べて販売しましょう。

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone

植物×廃材「ハコミドリ」について

鹿骨アクセサリーブランド「deer bone “hai”」について

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「VOID A PART」が立つ琵琶湖のほとり
「VOID A PART」が立つ琵琶湖のほとり