『灯台もと暮らし』編集部のひとりである私は、未婚で子どももいません。ですが、いつか妊娠・出産を経たら、子どもをたすきがけして働きたいという思いがあります。そこで、編集部自身のこれからの暮らしを考える企画【ぼくらの学び】のなかで、家計のためだけではなく意思を持って仕事をしているお母さんたちに、どうすれば「子どもをたすきがけしながら働けるのか」、生の声をうかがいます。

Instagramで見かけた、かわいいイラスト。描いているのはイラストレーターの横峰沙弥香さんという女性です。

バギーから延々と手を振り続けて おばあちゃんたちから喝采を浴びてる #凄く地味なエピソードだけど #こういう家族とたまにすれ違うので #あるあるなのかな #ロイヤルファミリー気分 #HOBONICHI #ほぼ日 #ほぼ日手帳 #ほぼ日カズン #育児 #子育て #1歳 #男子 #息子 #マメちゃん #illust #myson #まめ日和 #まめ日記 #ドゥ #オレのバイバイには価値がある #そう信じているものだからこそできるバイバイ #かわいい #よそのお子さんでもこれをやられるとかわいくて爆発しそうになる なんとか色々調整をつけて、 夏休みを頂くことにしました。 弾丸ツアーですがこれから一泊で遊びに行ってきます! 千葉へ!!

横峰 沙弥香さん(@sayakayokomine)が投稿した写真 –

横峰さんは19歳年上の旦那さまと結婚し、現在は1歳半の息子さんと3人暮らしです。毎日Instagramに上げている息子さんや家族のイラストは、『まめ日記』として書籍化するほどファンが多く、子どものいない私も毎回イラストを見るのを楽しみにしています。

長崎県から上京してきた横峰さん。物腰柔らかな雰囲気をまといつつ、「私、もともとすごく短気なんですよ」と笑いながら話す笑顔の奥に、強き母の気配を感じました。

育児はやって当たり前。誰も褒めてくれない

── Instagramでずっとイラストを拝見していたので、横峰さんはもちろん、今日はまめちゃん(息子さん)にも旦那さまにもお目にかかれてうれしいです。ありがとうございます。

横峰沙弥香(以下、横峰) こちらこそ、ありがとうございます。

── 最初に、イラストレーターになったきっかけを、教えていただけますか。

横峰沙弥香さん

横峰 絵を描くのはずっと好きで、そういう仕事もしたいなと思っていたんですけれど、結婚するまでは、福岡県でローカル局のレポーターをしていたんです。タレント業のようなものですね。その仕事をしている中で知り合った方が、偶然私の落書きを見つけて、絵を描かせてもらえる仕事を初めていただきました。

ただ、対価をいただいてイラストを描くとなると、アルバイトや趣味の延長としてではなく、きちんとイラストレーターとして名乗って仕事をするのがいいというアドバイスをもらって、この仕事にのめり込んでいきましたね。

── 結婚を機に、レポーターのお仕事は辞められたんでしょうか。

横峰 はい。結婚後、すぐに妊娠したので、妊婦さんだとレポーターは難しいということで退職しました。私は絵を描く仕事がすごく好きなので、妊娠中も隙あらば仕事をもらおうと思って、退職後もすぐにフリーのイラストレーターとして営業をしたんですけれど……。

やっぱり妊娠していたり、子育て中だったりすると、どうしても納期や仕事に支障があるのではという意見もあり、なかなか働けない時期もありました。偶然、Instagramで注目していただけたので、本当にラッキーだったなって思います。

── Instagramにイラストを投稿し始めたのは、何か転機があったのでしょうか。

横峰 息子を出産してからずっと、手帳に息子の身長や体重を記録していたんですね。それだけではなくて、おっぱいを飲む頻度とか、いつウンチをしたかとか、分刻みでメモを書いていて。息子の情報は私が書き留めておかないとデータが何もないから、病気をしたときとか大変だと思うと、記録していないと不安で落ち着かなかったんです。

でも、だんだんそれに心が疲れてきてしまって。同時に里帰り出産だったこともあって、息子が生まれてから3ヶ月間は私は実家の長崎で過ごしていたんです。夫は東京で一人残っていたので、電話でよく話していたんですが、私は育児で寝不足でヘロヘロ状態で恨み言を言ってしまったり、夫も仕事で忙しくてイライラしたり、コミュニケーションがうまくとれない日が続きました。

そんな時、手帳に気晴らしに落書きをしたのが、すごく楽しくて。キッチリ記録をつけるより、その日あった出来事を一枚のイラストに凝縮して伝えた方が気楽だし夫にも伝わるし、笑ってもらえるかなって思ったんです。

横峰沙弥香さんのイラスト
横峰さんが一番最初に気晴らしで描いたという、まめちゃんのイラスト

── 旦那さんとのコミュニケーションツールでもあり、横峰さんご自身のストレス発散にもなった、と。

横峰 はい、日々の息子の記録をイラストに変えたのは、そういう理由です。Instagramに載せ始めたのは、密室育児だったので、誰かに認めて欲しいっていう承認欲求、ですね。

育児の最中は、一日中授乳して寝かしつけをする日々なので一人で遊びに行くこともできないし、社会から隔絶されたような感覚になってしまうんです。子どもを育てるのは当たり前のことですから、誰も褒めてくれません。でも、時には労ってほしいじゃないですか。

── そうですね。子育て中の、特に生まれて数ヶ月の赤ちゃんを育てる世のお母さんたちの話は、聞くたびに本当にすごいなぁと思います。

横峰 Instagramに乗せてタグをつけたら、誰かが見つけてくれるかもしれないし、気まぐれでも「お疲れ!」ってコメントをしてくれるかもしれない。そんなふうに思って、ちょっとのろしを上げる気持ちで投稿を始めたんです。

アドリブが得意な夫と完璧主義の私

── ご夫婦で、子育ての役割分担のようなものはあるんですか?

横峰 あ、うちは役割分担はないんです。しないようにしていて。できるときにできるほうがやる、という。

私はガチガチに形式を決めてやらないと気がすまないタイプで、夫はアドリブがうまいタイプ。たとえば息子が泣いていたら、夫はお腹が空いたのかオムツを替えたほうがいいのか、まず全部試してみて正解を見つけるんですけれど、私は「こういう泣き方なら、アレが原因かな」と分析したり、泣き止ませるためにお菓子をあげるのはダメだ、とかいろいろ考えすぎちゃっていたんです。ふたりとも考え方が違うから、結婚当初はよくそれで揉めました。

── どんなふうに折り合いをつけていったんですか?

横峰 私は最初から手を抜くということはしたくないんですね。人間ですから、完璧にはできないにしても、一度その完璧を目指して努力をするべきだと思っているんです。一度本を読んで納得したやり方で、完璧にやりたい。それでダメだったら次のものを試してみたいという意識でした。

でも夫は最初から無駄だと思うものは省いていいっていうタイプなんですよね。本当に無駄かどうかはキッチリやってみないと分からないというのが私の意見なんですけど。でも、そういう私の姿勢に対して夫は呆れ果て、私は夫の適当さが頭にきて……怒鳴り合いの喧嘩をしたこともありましたねぇ。でも、最終的には私が折れました。

横峰沙弥香さん

── 横峰さんが折れたのは、どうしてですか?

横峰 夫のやり方の方が、息子が楽しそうだったからですね。だから私も夫のやり方を真似して、フレキシブルに動こうと思うようになりました。

── 役割分担をせず、それぞれが自分の判断で子育てをするって、最高の方法だと思います。

横峰 うん、とても助かっています。役割分担をしないのは、どちらかが何もできなくなったとしても困らないように、どちらも全部できるようにしておいたほうが安心かなって思ったからです。

夫は自分の判断で動くので、本人が喜ぶからっておやつを多めにあげたりするんですけど、そのせいで私がカッとなっても、また険悪になるだけです。だったら、明日は私がヘルシーなものを食べさせて調整すればいいなって、今は思えます。あげちゃったものはしょうがないですし、「おやつをあげたなら、歯磨きまでちゃんとやってよ」って言えば、夫も息子の歯磨きをできるようになりますしね。

自分が充実して初めて周りを幸せにできる

── 今お話している感じだと、すごくやわらかい印象なので、横峰さんが怒鳴ったりしている姿は全然できないですね……。

横峰 そうですか? 子どもが生まれてから、少し変わったかもしれませんね。昔からフリーで仕事をしていたので、自分から意見もガンガン言う方でしたし、短気でした。売られた喧嘩は必ず買うタイプでしたしね(笑)。

── そうなんですね!

横峰 でも母親になってからは、戦ってばかりなのもいけないなと思うようになりました。今は私一人の人生ではないので、「嫌われても、べつにいいわ」では済まないなと感じます。そのせいで、息子が孤立してしまったり生きづらくなると良くないので。

我を通すために頑固だった昔の私を知っているひとは、今の私を見るとビックリするかもしれませんね。

横峰家

横峰 私、昔からすごく自己中心的な人間で、個人プレイが多く、自分が一番大事だったんです。自分が充実していないと周りを大切にできないタイプの人間でした。でも病院で先生に「はい」って産まれたばかりの息子を抱っこさせてもらった瞬間、ダーッと涙が出てきて。なんでしょうね、あの愛おしさというか……。

── 母親になりたいという気持ちを持ったことはありましたか。

横峰 いえ、結婚願望もありませんでした。なんせ自分大好きなんで(笑)。仕事がうまくいけば一生一人でもいい、くらいでした。

── 母親になったことで、物理的な自由や個人プレイができる機会は減ってしまったかと思いますが、その変化に対するストレスとか葛藤はなかったのでしょうか。

横峰 母親になった以上、個人プレイは二度とできないんじゃないかなって思いますね。それでも私が子育てに対して、自然と馴染めたのは、私が昔、個人プレイを楽しみ尽くしたからだと思うんです。

レポーターの仕事もそうですし、両親の反対を押し切って上京してきた時もそうですし、本当に好き放題して生きてきたんですが、子どもが生まれた瞬間、宝物を手に入れた気持ちになったんですよね。自分よりも大事にしたい存在ができたっていうのが正直自分でも驚きでしたし、本当に違う生き物に生まれ変わったような気持ちになりました。ある意味、子育てに幻想を持っていなかったから、よかったのかもしれません。

だから、出産する前のような個人プレイはできないですし、以前できたことができなくなるような不便はあっても、今の私にとっては息子を大切にすることが、自分を大切にすることにつながるような気がします。

── 個人プレイを楽しみ尽くせたからこそ、また新しい楽しさを見つけた感じなのですね。

横峰 そうですね。以前私の母が「私はあなたたちのためなら死ねるよ」って、言ったことがあったんです。あまりにも簡単そうに言うから、あまり信じられなかったんですけれど、今では母の気持ちが分かるかな。その感覚を味あわせてくれただけでも、息子はもう十分親孝行してくれていると思います。

── 日々の暮らしの中で、仕事というのはどれくらいの優先度というか、割合を占めているんでしょうか。

横峰 欲を言えば、やりたい仕事もありますけれど、そのせいで息子にかけられる時間がなくなるのはイヤなんです。一度キャパオーバーになって、救急車に運ばれたこともあって、そうなっちゃうと子育ても仕事もどちらもできなくなってしまいます。

子どもが生まれても、自分という人間のキャパは変わりませんから、容量が10あったとしたら5くらいを子どもに費やすわけです。残りの5を使って、もともとやっていた仕事や趣味をやろうとしても、無理じゃないですか。今までできたことも妥協したり我慢したりして、折り合いをつけなくちゃいけない。私の場合、子どもに費やす時間はどんどん増えていくので、自分の時間というのは減っていく。だからどこで線引きをするかを常に考えて、時には息子との時間を優先しますし、時には夫や両親にお願いをして、仕事を優先させることもあります。

仕事と子育ての折り合いをつけるのって難しいし、てんやわんやになることもあるんですけれど、私自身、その状況を楽しんでいるし満足しているんです。そのためには、出産を経験する前に、一回やりたいことを徹底的にやることが大事かなって思います。

横峰家
横峰家

お話をうかがったひと

横峰 沙弥香(よこみね さやか)
1984年生まれのイラストレーター。長崎県出身。2015年に産まれた息子の育児絵日記をInstagramで毎日更新中。またウェブ版女性自身にて連載「まめ日和」を更新中。6/13には、順次全国書店にて著書『まめ日記』発売。Twitter:@mameyokomine

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