6月上旬に開催された「表参道ごはんフェス」。若い女性を中心に、家族連れやご高齢のご夫婦、カップルや友人同士など、様々な方々が詰めかけ、大盛況でした。

このイベントの仕掛け人は、日本の食と人を伝えていくことをミッションとする、プロデュース集団「honshoku」。その発起人である、平井巧(ひらい さとし)さんに、お話をうかがいました。

「食」に正解はない

── 「食」のプロデュース集団と銘打って活動している「honshoku」さんですが、どういったチームなのか教えてください。

平井巧(以下、平井) もともとフリーランスで活動していたメンバーが集まって発足しました。「honshoku」として活動を始めたのは、2015年なので、今年です。今まで「表参道ごはんフェス」というイベントなどを企画・運営してきました。「表参道ごはんフェス」は、6月の開催で3回目を数え、次回は11月を予定しています。

「honshoku」代表の平井巧さん
「honshoku」代表の平井巧さん

── なぜテーマを「食」にしたのでしょうか?

平井 メンバーの関心事が「食」だったからですね。そもそも代表の僕も「食」をテーマに活動したいという想いをずっと持っていて。僕は東京出身なんですが、18歳のときに新潟県の大学に進学しました。そのとき、地元出身の同級生たちが「お米を買っていない」ことに気が付いて衝撃を受けて……。

みんな、親戚や知り合い筋に米農家さんとか、仕入れルートがあるみたいで、お米を買わないんですよね(笑)。それまで僕は、スーパーで買うのが普通だと思っていました。

── 編集部に新潟県出身者がいるので、非常に理解できます(笑)。

平井 大学時代はずっと山奥に住んでいたので、一人暮らしの友達に食材をもらう代わりに、僕が料理をしてみんなに振舞ったりして。「おいしい」って言ってもらえることがうれしくて、大学時代はどんどんと「食」への関心が深まっていきましたね。

── なるほど。では、「honshoku」が目指しているところとは?

平井 食材や料理、それらを誰と、どう食べるか。そして、食べたあとの余韻まで、食にまつわるすべてのことをデザインして、魅せていきたいと思っています。

今のところ、「表参道ごはんフェス」が最も有名な活動ではあるので、「honshoku」はお米好きなんだ! と思われがちなんですが(笑)、食材を限定しているわけではないんです。「表参道ごはんフェス」が、お米をテーマにしているだけであって。

あと、よくフードコーディネーターと間違われたりしますが、僕らは料理をするわけではありません。食べ物そのものだけでなく、それを取り巻く環境や人を、ビジュアルとしてデザインして「食」を魅せていきたいんですよね。

チーム「honshoku」
チーム「honshoku」の方々

── 食にまつわる切り口が、いろいろある中で「コレを特に届けたい!」という想いはあるのでしょうか?

平井 食には答えがありません。宗教や体質、好き嫌いなど「食」をとりまく環境は、人それぞれ。だから僕たちとしては、「答えを見せない」というのをひとつのモットーにしています。

表参道ごはんフェス

平井 「食」をとりまく環境が人それぞれであるのと同じように、「食」に関心を持つきっかけも、十人十色。農家さんと話すことで、食べ物を選ぶ楽しさや奥深さを知る人もいれば、「表参道ごはんフェス」のように、カジュアルなイベントの場で自分の食生活を見直すきっかけを得る人もいます。

いろいろな切り口で、「食」に意識を向けるスイッチを入れられるようなことをしていきたいんです。

お米のサードウェーブが始まっている

── もとくらでもご紹介した「表参道ごはんフェス」ですが、表参道という場所を選んだ理由を教えてください。

平井 理由は主に3つあります。1つは東京の最先端の流行の発信地で、感度の高い人が集まる場所でやりたかったということ。2つ目は、海外からのお客様に、お米に触れてみてほしかったということ。3つ目は、表参道がもともと水田地帯だったということが挙げられます。

ごはん
「表参道ごはんフェス」のフードイベントの1つ「On The Rice 第七膳 ブレンド米の宴」より

── 今回で3回目ということですが、以前と何か違う手応えはありましたか?

平井 まったく違いますね! 来てくださる方が、業界内ではないというか、いわゆる一般のお客様が多くて、女性の姿もとても目立ちました。

以前は、JAや農水省など業界内の方がやはり圧倒的に多かったんです。でも、「honshoku」として届けたい人たちは、今回来てくださったような、一般的に「食」に関心のある方々。表参道を歩いているときに偶然「表参道ごはんフェス」の開催を知って、というように、ふらっと立ち寄ってくださる方がいたのも非常に嬉しかったですね。出展してくださった方々も、来場者層が変わったことを喜んでくださっていました。

── コンセプトが「お米のサードウェーブ」でしたが、平井さんは、どういう点がサードウェーブだと考えていらっしゃるんですか?

平井 サードウェーブというのは、文字通り第三波、という意味です。最近は、コーヒーのサードウェーブが流行していますが、お米にも同じような流れが来ているのではないかと思っているんです。

どういうことかというと、お米の歴史というのは、じつはここ40年ほど変わっていません。

1956年に「コシヒカリ」というブランド名が農林登録されて、だんだん認知されるようになっていきました。そのあと、いろいろなブランドのお米が開発されていますが、未だに「コシヒカリ」という名前は圧倒的に認知度が高いです。

おにぎり

平井 また、三角形のおにぎりが一般的な形になったのは、コンビニがきっかけと言われています。それまでも、三角形のおにぎりはもちろん、俵型などいろいろな形がありましたが、「おにぎり=三角形」のイメージを定着させたのは、コンビニの影響が大きいと思います。

ですが、それは40年ほど前の話で、当時から今日まで、おにぎりを取り巻く環境はほぼ変わっていません。お米の消費量も減るばかり、農業を辞める人もどんどん増えています。お米屋さんや農家さんも、お米の良さをどう伝えていっていいのか分からず、困っている方も多かったんです。

でも最近、食に対する関心の高まりのおかげで、今までとは違う形で、お米の魅力を発信しようという動きが活発になってきました。僕たちとしては、この盛り上がりが「お米のサードウェーブなんじゃないか」と思って、先に宣言してしまおうと思ったんです。

── お米は、あって当たり前のものというイメージですが、そこに新しい風が吹いてきているんですね。

平井 食べられるのが普通になってしまうと、なかなか見直す機会も得られません。でも食材の裏側には、いろんなルーツがあります。味わうということはもちろん、年に数回でもいいから、目の前の食材の存在を見つめ直してもらえたらうれしいですね。

ごはんフェス

── 「honshoku」としては、次はどんなことにチャレンジしていきたいですか?

平井 「表参道ごはんフェス」のようなイベントは、定期的に開催したいなと思っています。東京だけではなくて、いろいろな地域で、地元の農家さんといっしょにできたらいいですね。

僕らは、何かを作ることはできませんが、きっかけを生み出すことならできます。イベントでの出会いは、どうしても一過性になってしまいがちですから、作り手と食べる側が、お互いの顔を見て話すことのできる場を、少しずつ増やしていきたいと思っています。
honshoku

お話をうかがったひと

平井 巧(ひらい さとし)
honshoku」代表、トータルフード・プロデューサー。東京農業大学非常勤講師。SP広告代理店、IT関連会社を退社後、トータルフードプロデューサーとして活動開始。ごはんの祭典「表参道ごはんフェス」の企画運営/フードロスを考える新しい食スタイルの提案「サルベージ・パーティ」プロデュース/若手シェフユニット「EPICOOK」プロデュース/原宿に三代続く「小池精米店」ブランディング/個性豊かなケータラーを発掘し体感できる「ケータリングフェス」など。2014年4月より東京農業大学にて多摩川流域のブランディングに取り組む「Resources Project」を立ち上げる。

(アイキャッチ写真:「表参道ごはんフェス」出展の「on the rice」より)